片頭痛



片頭痛とは

とても有病率の高い頭痛(この病気をお持ちの方が多い病気)で、こどもから大人も含めて若い方にも多い病気です。こどもの時は男女ともに同じほどの頻度でみられますが、ホルモンの乱れが原因になることもあるため、思春期以降は女性に多い病気となります。痛みの程度は強いことが多く、また繰り返し頭痛がでることが多い為、仕事や家事、学業の集中ができない、休んでしまう。次に頭痛が出てくることが不安になっていまう。周りの理解が得られない。人との約束を遠ざけてしまうなど、多くの負担を抱えている方がいらっしゃいます。
痛みの前に前兆があるかたもいらっしゃいますが多くの方は突然痛みが出現し、1時間ほどで痛みがピークとなり、痛みが出ると数時間から数日痛みが続くと言われています。
痛みはズキズキ・ドクドクしたような拍動性とよばれる頭痛なことが多いと言われていますが、頭痛の頻度が増えると持続的な痛みとなることもあります。頭の片側なことが多いですが両側に頭痛が出ることもあります。歩いたり体を動かすと痛みが強くなることが多く、身動きができなくなることが多いです。
頭痛発作時には痛みの他に吐き気や嘔吐、光や音に過敏になって不快感がでる、皮膚に触れる軽い刺激が痛みに感じてしまうなどの症状が出ることもあります。
痛みの前に起こる前兆としては目の前にキラキラとした光が見えたり、首の周りに違和感がでたりすることがあります。
症状が起こる頻度は1年に数回から週数回まで様々ですが、徐々に頻度が増えてしまうこともあります。適切な治療を開始行うことで頭痛の頻度と頭痛の程度を減らすことができます。
片頭痛が起こるメカニズム
ストレスなどが引き金となり三叉神経(痛みを感ずる神経)からカルシトニン遺伝関連ペプチド(CGRP)という痛み物質が放出され、脳の血管の拡張の後に血管周囲に炎症を引き起こすことが頭痛の原因と言われています。ホルモンの乱れが原因となることもあるため思春期以降生理周期にともなって片頭痛がおこることもあります。
また片頭痛は遺伝的な要素もあると言われており、血の繋がった肉親に片頭痛の方がいらっしゃる場合、片頭痛になる可能性が高くなるといわれています。
片頭痛の診断
片頭痛を含めた多くの一次性頭痛は症状からおおよそのあたりをつけることは可能でが中には片頭痛と緊張性頭痛や群発頭痛を併発されている方もるため、しっかりとした症状の確認と診察が必要になります。また頭痛の中には、他の頭の病気が原因で起こる頭痛(二次性頭痛)があり、これらの病気は命に関わることがあります。特に片頭痛の特徴といえる突然の強い頭痛は、二次性頭痛にもみられることがあるため、そういった病気を否定する為には頭の中を詳しくみるための頭部CT検査や、頭部MRI検査が必要になります。また薬の治療を開始するにあたって、薬の効き目に影響する肝臓の機能や腎臓の機能を調べるため血液検査が必要になります。もしも二次性頭痛を疑う危険な兆候が見られた場合には腰椎穿刺が必要になることもあります。
片頭痛の方が日常生活で心がけること
1.食事
空腹が頭痛の引き金になることがあるため1日3食規則正しく食べるように心がけましょう。
ココアやチョコレート、チーズ、柑橘類、またアルコール特に赤ワインは片頭痛の原因になることがあります。これらを食べたり飲んだ後に痛みが出てくるようであれば控えるようにしましょう。
逆に大豆や玄米、海藻類などのマグネシウムを多く含む食品やうなぎやレバー、ほうれん草などビタミンB2を多く含む食品は片頭痛の予防に効果があるとされています。
2.睡眠
寝不足でも寝過ぎでも片頭痛を引き起こす原因になると言われているため、規則正しい生活を送るよう心がけましょう。
3.外出
強い光や匂い、音、暑さなどのストレスが片頭痛の引き金になることがあります。外出次にはサングラスをつける、人混みを避ける、気温が上がる時間帯を避けるなどの工夫が必要になります。
4.月経
主要な女性ホルモンであるエストロゲンは片頭痛の引き金になると言われています。月経周期に女性ホルモンのバランスが変化することによって月経前、月経中に片頭痛が引き起こされることがあります。周期的に片頭痛が起こるため、頭痛がいつも起こるタイミングを確認していただき、頭痛が出そうな時に予防的に鎮痛薬を飲むようにしましょう。
経口避妊薬「低容量ピル」にはエストロゲンが含まれています。元々片頭痛をお持ちの方はピルを飲むことが片頭痛の引き金になります。しかも片頭痛の方のピルの内服は脳梗塞などの副作用が他の人よりも出やすくなると言われています。そのため避妊目的でのピルの内服は直ちに中止しましょう。ただピルはホルモン療法として避妊目的意外にも婦人科疾患に対して内服していただくことがあり、それらの場合は中止が困難なこともあるためかかりつけの婦人科の先生との相談が必要になります。
5.薬剤
血管を拡張させるような薬が片頭痛の引き金になることがあります。
また市販薬を含め、痛みどめなどの薬の飲み過ぎが頭痛を引き起こすこともあります。自分がどんな薬をどれくらいの量、どれくらいの頻度で飲んでいるかを確認して、特に月に10回以上の痛み止めを内服している方は薬の調節が必要な可能性が高く、医師と相談しましょう。
6.頭痛の記録
これらのことを気をつけつつ、可能であれば頭痛の記録を残すようにしましょう。
頭痛が起こったタイミング・痛みの程度・引き金となったものなどをメモして残すようにすると痛みを避ける方法や薬の飲むタイミング、ご自身にあった薬の種類の変更などに役立ちます。
片頭痛が起きてしまった時の対応策
1.部屋を暗くし、静かに横になって休みましょう
2.頭を冷やしてあげることで拡張した血管を収縮させ痛みを和らげることができます。ただし直接氷など冷たすぎるものを当てると刺激が強すぎるので注意してください。
3.コーヒー・緑茶などを飲んでカフェインを取ると痛みが和らぎます。
4.痛み止めは頭痛がではじめたら早めに飲むようにしましょう。時間が経ってから痛み止めを飲んでも効きが悪くなります。
片頭痛の治療
片頭痛の治療薬としては大きく分けて、痛み発作がでる予兆があった時や痛みがでてしまった時に痛みを抑える薬と頭痛発作自体が起きにくくする予防薬の2種類があります。その他、片頭痛に合わせて出てくる吐き気やめまいなどの症状に合わせた治療を行なっていきます。
痛みを抑える薬
片頭痛の痛みを抑える薬の重要なポイントは、薬を飲むタイミングを早くすることです。
片頭痛はストレスなどが引き金となり三叉神経(痛みを感ずる神経)からカルシトニン遺伝関連ペプチド(CGRP)という痛み物質が放出され、脳の血管の拡張がおこり、後に血管周囲に炎症を引き起こし、痛みが強くなります。片頭痛の痛みを抑える薬の代表であるトリプタン製剤は脳の血管拡張を抑える薬となるため、血管周囲の炎症が起こってしまってからでは効果があまり感じられなくなってしまいます。他の痛みを抑える薬も、飲んでから吸収されて効果が出てくるまでに時間がかかるうえ、頭痛が酷くなると吐き気で薬が飲めなくなってしまうこともあるため、頭痛が起こりそうな前兆を感じたり、頭痛画で始めたら早め早めに痛み止めを飲むことが重要となります。
トリプタン系薬剤
スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、リザトリプタン、ナラトリプタンなどがあります。
スマトリプタンには錠剤の他に、経鼻スプレーや注射薬もあります。
一般的な薬に比べて飲んでから効果が現れるまでの時間は非常に短いとされています。
しかし先ほど述べたように飲むタイミングが重要な薬なので、頭痛が出る前に目の前がキラキラ光る・あくびがでるなどの前兆が見られた場合や頭痛がではじめたらすぐに飲めるように常に持ち歩くようにしましょう。
通常の痛み止め薬(NSAIDsやアセトアミノフェンなど)
ロキソニン、イヴ、バファリン、カロナールなど市販されている薬も含まれます。
片頭痛が軽い方はトリプタン系薬剤の代わりに使用したり、中等度以上の方では、トリプタン系薬剤と一緒に内服したりします。
これらの薬はトリプタン系薬剤ほど効果が現れてくるのが早くないため、こちらも早め早めの内服が必要になります。
予防薬
血管拡張薬 (ミグシス、テラナスなど)、降圧薬(インデラルなど)、抗てんかん薬(デパケンなど)などがあります。
片頭痛の頻度が多い方(月3、4回以上)、頭痛発作時の痛みが非常に強い方、薬のアレルギーでトリプタン系薬剤などが飲めない方などは予防薬の開始を考えます。
毎日飲むお薬になるため、頻度が少なかったり痛み止めだけで痛みのコントロールが十分な方は必要度が低いものになります。
2021年4月から日本で新しい予防薬の注射薬が発売され、注目されています。

血管拡張薬(ミグシス、テラナスなど)
カルシウム拮抗薬とよばれる血管拡張薬で代表的な片頭痛予防薬となります。
予防効果が現れてくるまで1ヶ月以上かかるとされ、内服を続けることが重要となります。

降圧薬(インデラルなど)
β拮抗薬と呼ばれる高血圧の治療薬になります。血管の拡張作用から、同様に片頭痛の予防効果が期待できます。

抗てんかん薬(デパケンなど)
てんかんとは脳の異常な興奮によって起こるものであり、それを抑えるものが抗てんかん薬です。片頭痛予防としては脳の中の三叉神経と呼ばれる部分の興奮を抑えてあげることで頭痛発作を抑える効果があると考えられています。

2021年4月26日より日本国内初の「ヒト化抗CGRPモノクローナル抗体製剤」が発売になりました。片頭痛の原因とされている、脳にある三叉神経(痛みを感ずる神経)からでるカルシトニン遺伝関連ペプチド(CGRP)という痛み物質の働きを直接抑えることで効果を発揮する薬になります。
エムガルディの特徴として
月に1回の注射による片頭痛予防薬
頭痛発生の頻度を下げる効果が高い
片頭痛発作の頻度を抑えるだけでなく、発作がでてしまっても、痛みの強さが抑えられる
これまでの予防治療で効果が低かった人も効果が期待できる
副作用が少なく安全性が高い
薬が高価である:元の薬価は45,165円で、3割負担の方で1本あたり13,550円
などがあげられます。

その他
片頭痛発作時にはめまいや吐き気などの症状もでます。それぞれの症状に合わせて薬の調節を行います。

片頭痛は強い頭痛を繰り返す病気なため非常に日常生活に支障が出ます。
また治療に関してもタイミングがずれると効果が出にくかったり、予防薬も種類があり適切な治療が難しい病気でもあります。
薬の調整や新しい治療の開始もできますので、片頭痛にお困りの方は是非外来に相談にお越しください。

エムガルディとは

エムガルディ写真 2021年4月26日に国内で発売になった片頭痛治療薬「エムガルティ」(一般名ガルカネズマブ)は片頭痛の原因とされている、脳にある三叉神経(痛みを感ずる神経)からでるカルシトニン遺伝関連ペプチド(CGRP)という痛み物質の働きを直接抑えることで効果を発揮する「ヒト化抗CGRPモノクローナル抗体製剤」になります。
当院でも使用可能です。

エムガルディの特徴として
月に1回の注射による片頭痛予防薬
注射薬ではありますが月に1度で済むため予防薬を毎日飲むのに比べて楽と考えられます。
頭痛発生の頻度を下げる効果が高い
薬の効果を判定する試験で繰り返す片頭痛の方が、1ヶ月に起きる頭痛発作の頻度が半減した方が60%、1/4に減った方が30%、発作が出なくなった方が10%という結果がでました。
片頭痛発作の頻度を抑えるだけでなく、発作がでてしまっても、痛みの強さが抑えられる
痛みのピークが下がり、痛み止めの薬が聞きやすくなるといわれています。
これまでの予防治療で効果が低かった人も効果が期待できる
海外の試験データになりますが、これまでの予防薬を内服していたも痛みのコントロールが不十分だった方でもエムガルディにて平均で頭痛発作回数が月4.1回減ったとされています
副作用が少なく安全性が高い
注射薬なため刺した部分の痛みや一時的な腫れはありますが、その他の副作用としてはめまい(1.8%)、吐き気(1.8%)と非常に低く、重篤な副作用の報告は0例で、安全性の高い薬といわれています。
薬が高価である
非常に効果が高く、安全性も高いということで期待される薬ですが、この薬の欠点としては薬が高額な点です。
元の薬価は45,165円で、3割負担の方で1本あたり13,550円になります。
1回目の投与時は体の中の血中濃度を安定させるため2本同時に投与を行うため、薬代だけで13,550x2=27,100円、2回目以降は月1本ずつの投与となるため13,550円、そこに通常の再診療や注射処置料などがかかることになります。
これまでの治療で効果が不十分で、日常生活への支障が強い方が良い適応と考えます。
費用が高いことからも3か月投与して効果がなければ中止を考慮します。
当院でのエムガルティ治療
下記に示した厚生労働省が定めた最適使用推進ガイドラインに沿って投与が可能かの判断をさせていただきます。
1.医師に片頭痛と診断されていること
2.片頭痛発作が過去3か月の間で、平均して1か月に4日以上おきていること
3.従来の片頭痛予防薬で効果が不十分、
または副作用などの理由で予防薬内服の継続が困難な場合
4.妊娠中・授乳中は、十分検討した上での「慎重投与」は可能である
5.18歳未満の小児は現時点では「使用不可」

また、発売直前に厚生労働省が新たに定めた基準として、日本神経学会・日本頭痛学会・日本内科学会(総合内科専門医)・日本脳神経外科学会のいずれかの専門医認定を受けていることとされました。
そのため投与できる病院が限られてしまいますが、当院での頭痛外来は脳神経外科専門医が行うため、問題なく使用できます。